等音面の確率過程による数学表現

等音面の確率過程による数学表現

 
◆はじめにのはじめに、、

みなさん、こんにちは~ 今回の記事、等音面の確率過程による数学表現は、
たぶん、本当に誰も読まないと思ってUPしています。
ただ、せめて眺めてください。
 
数学や物理学の専門知識がないと読めないですし、そのような専門家でも、
形式的には理解できても おそらく真意は伝わらないでしょう。
なぜなら、後頭葉ゲシュタルト世界の科学であるフォノグラムを、
無理やり前頭葉ゲシュタルト科学の表現に押し込んでいるからです。
前頭葉ゲシュタルト科学とは、現代の科学のことです。
等音面とは、いわば、12KENの前頭葉ゲシュタルト表現であり、
12KENとは、等音面の後頭葉ゲシュタルト表現なのです。
この前頭葉ゲシュタルトと後頭葉ゲシュタルトを連続的につないでいるのが
23.46次元トンネルです。
ピタゴラスカンマの謎を解くことでこのようなことが理解されてきます。
 
この論文を学術的なセミナーで発表するとき、ここまでは通じるであろうギリギリで、
押さえる努力をしました。 つまり、前頭葉ゲシュタルト科学であっても、
これは認めざるを得ないところだけを論文にまとめたということです。
そういう意味において、この論文は自分にとっての大仕事の一つです。
私の仕事は、地球とアルザルを結ぶことです。
地球とアルザルと表現していることは、前頭葉が認知しているこの物理宇宙と、
後頭葉(身体知)が認知するフォノグラム宇宙のことです。
12KENがアルザル側からの地球側へのフックであり、
等音面の確率過程による数学表現が、 地球側からのアルザル側へのフックです。
これら二つの本質的に等価な理論が、地球とアルザルでは、
その表現法が異なるということなのです。
そして、この表現法の推移を徹底的に研究することで、
新しい科学の真の記述法が見出されるかもしれません。
フォノグラム図形そのものがその一つの候補です。
 
また、数学という学問の適応限界というものもはっきりすることでしょう。
数学とは証明の科学であり、真偽判定ができる表現フォームに、
落とし込むことが出来る事象以外は、その対象にすることはできません。
逆に言えば、そのように限定して宇宙を切り取り、物事を考えることであるとも言えます。
であるからこそ、シャープな本質を抉り出すことが出来る反面、
いくらかモノトーンになり、豊かな色彩を失います。
また、論理論証は線形時間の中にのみ存在します。
そして、幾何学は3次元空間という前頭葉ゲシュタルト(電磁現象)が見せている幻影です。
物理学はこれら時間空間のパラメータをアプリオリに使用して発展してきました。
後頭葉ゲシュタルト認知では、この因果律が融解していきます。
23,46次元トンネルをくぐっていくと徐々に時空認知の基本フォームが壊れていくのです。
つまり、そのような世界へ移行するとき、数学という表現フォームが、
意味をなさなくなるということなのです。
証明とは線形時間と、電磁的3次元空間というフレームがあって、
初めて成立することなのです。
 
数学表現が有効なのは、前頭葉ゲシュタルト認知である電磁的物理宇宙に対してです。
後頭葉ゲシュタルト認知であるフォノグラムの数学表現を研究することにより、
数学というものの表現の適応限界を炙り出すことが出来ます。
もちろん、現行の数学や物理学も、あるフレーム内では今後も発展し続けるでしょうが、
後頭葉ゲシュタルト世界を表現することはおそらく不可能であるばかりか、ナンセンスです。
 
と、ここまで書いて、、、
 
この文章すら読んでもらえないかも、、、
 
いろいろなワードが出てきましたが、これらの詳しい解説記事は今後UPしていく予定です。
また、いくらか先行した考察がブログ:おにょ日記に書いております。
参考にしてください。 
 


概要

本論文は等音面の数学的表現の可能性についてのものである.等音面の数学的構造は,確率密度関数が一様なBrown 運動場と見做すことができることを示す.また非等音面は,外力の働くBrown 運動場,すなわち確率密度関数が一様ではないドリフトする粒子の確率過程場と見做すことができることを示す.その帰結として,ホワイトノイズを流した(非)等音面上の粒子の挙動はSchrödinger 方程式に従うことを示す.結びとして,等音面の確率過程による定式化が波動方程式の固有値問題の拡張になっていることを議論し,Chladni 法を再考する.

初めに
本論文は,筆者論文「音の作る形」[1],「等音面の理論」[2] の研究を踏まえ,発展させたものである.したがって本論に入る前に[1],[2] の簡単な内容説明をしておく.[1] において,従来のヴァイオリン製作法とは根本的に異なる制作法を提示した.それは,形から音を決定するのではなく,音(タッピングトーン)から形を決定するという制作法であった.これこそ共鳴の原理に立脚した方法であり,等音面(音響的な対称性)なる概念に導かれた.また,圧電スピーカーを利用する測定方法により,タッピングトーンに基づく制作法が科学的に正当化された.測定により明らかにされたのは,等音面が,見事に共鳴板の各点において同一の振動数
分布を示したという事実である.また,同様に,等音面でない共鳴板は,固定端(外枠)が同じでも,共鳴板の各点の振動数分布は全く異なっていることがはっきりと示された.この結果を踏まえて,等音面の実現が,ヴァイオリン制作上の根本原理になりうることを示した.また[2] において,音響対称性という概念をより抽象化,厳密化するために,等音面の数理的研究の導入を試みた.我々の研究は,あくまで,実験事実から得られた事実から帰納的,発見的に数理を構築していく数理物理学的な研究手法であり,既成事実から演繹される純数学的な研究手法ではないことを強調した.また,そこで示された実験事実は,[1] において初めて示され
たものであった.実験結果からタッピングトーンが「響き方」を測る量であることを数学的に定式化し,「音を聞いて削る」という操作が連続群の構造を持つことを示した.この連続群を音響変換群と名づけ,それが作用する空間を関数空間の特別の場合として定義する試みをした. また,等音面の実現には生理的反応に基づく和声学的な事実を公理としなければ不可能であるが,等音面の実証,測定には,その公理は不要であることにも触れた.本論考の一つの動機として,この和声学的な事実に基づく公理を前提としないような,同値な理論が存在するか?という問題意識がある.すなわち,物理測定によって得られる観測可能量だけで等音面を構成
することができるか?という問題である.こうした問題意識が,等音面という幾何的特徴を,その上でBrown運動する粒子の挙動によって特徴付けるという本論考に導いたのである.以上,[1],[2] の研究を踏まえ,本論考の内容に移る.
膜の固有振動を視覚化する方法としてChladni 法というものがある.Chladni 図形は,振動する板に砂状の粉を撒いたときに現れる図形であり,波動方程式の境界値の解である固有関数の節に砂が止まって,節線が浮かび上がってできる図形である(とされる).これを数学的に定式化したものが重調和作用素の固有値問題である.これらの数学的研究は,あらかじめ,境界値さえ決めておけば,それに対応する固有振動数(固有モード)やそれに対応する固有関数の節線(Chladni 図形)が存在しているかのように研究が進められる.しかし,実際の楽器制作の現場において,共鳴板の固有振動数列をいかに増やしていくか?そのためにどのように共鳴板の形を決めていくか?が問題になる.固有振動数列がどのように増えていくか?という問題に対し,これら波動方程式の固有値問題は無力である.そこで開発された方法が,和声学理論に基づいたフォノグラム図形である.これは物理的な意味における観測可能量ではないため数学定式化が困難である.本研究は固有振動数に対応する砂粒の挙動(Chladni 図形)のみならず,ホワイトノイズや和音関係にある振動に対応する砂粒の挙動に着目することにより,等音面が,粒子のBrown 運動場である,とみなすことができることを示す.
一つの等音領域を一つの確率過程場とみなし,非等音面は異なる確率過程場の連結列として定式化することができる.Chladni 図形を浮かび上がらせる過渡的な情報が,砂粒の挙動に現れていることから,それが従う拡散方程式を基にした理論は,重調和作用素の固有値問題としてのChladni 法の定式化よりも,多くの情報量を含むことが予想される.また,粒子の挙動は,物理的に観測可能量であることから数学的定式化が比較的容易である.まず,等音面を\( L^2\) 空間として定義し,等音面上の振動数分布とBrown 運動の確率密度関数が同等であることを示す.次に,そのような確率測度が存在することをPaley-Wiener の定理,Ito-Nishio の定理
によって証明する.つづいて,等音領域の概念を説明し,非等音面を等音領域の合併として定義する.非等音面に対応する確率過程は,外力の働いている確率過程を考えねばならず,時間対称化した拡散方程式や三つ組みの正規性などの概念を導入しなければならない.等音面上の確率過程が,ドリフトのない一様なランダム運動であるならば,非等音面上の確率過程は,ドリフトの加わった,推移確率密度関数が異なるランダム運動に対応する.前者は古典的拡散方程式に従い,後者はランダム運動の発展方程式に従う.ランダム運動の発展方程式を複素数表示すればSchrödinger 方程式になることからホワイトノイズを流した非等音面上の粒子の挙
動は,Schrödinger 方程式に従うことが結論される.以上の定式化を踏まえて,干渉という物理現象が,波動論特有のものでなく,確率過程の絡み合いという現象からも説明することができることを紹介し,その観点からChladni 法を再考する.確率過程の絡み合いにおいて,ランダム運動の発展方程式の複素数表示であるSchrödinger 方程式が本質的に重要である.最後に,今後の展望,課題について議論する.

1 等音面上の確率過程
1.1 概要
等音面とは,ある曲面上の各点における振動数分布が等しいという特異な曲面である.その物理的存在は実験[1] により示すことができた.実験では,共鳴板の各点における振動数分布を測定し,等音面ではそれらの振動数分布が一致するという結論を得た.従って\(L^2\) 空間の元を振動数分布と見立てて,その空間上の理論構成を考えればよい.ここでは,\(L^2\) 空間の部分空間として,音列集合を定義し,その集合上で確率測度が構成できることを示す.それにより,等音面は,\(L^2\) 空間上のBrown 運動と解釈することができるのである.この観点に立脚すれば,確率過程論における数学的諸結果を用いることが可能となる.等音面が\(L^2\) 空間上のBrown運動という数学的実体としてみなすためには,そのような確率測度の存在を示さなければならない.その証明にはPaley-Wiener の定理,Ito-Nishio の定理を用いた.

1.2 音列集合
初めに,議論の出発点となる音列集合の定義から始める.[1] において,タッピングトーンという音響的な情報を元に,共鳴板の各点における振動数分布を調べた.これを精密測定したものが圧電スピーカーを利用した測定法であった.タッピングトーンとは,何かの鈍器で共鳴板の一点(接触点)を叩いた時に,共鳴板が返す振動数特性のことである.タッピングトーンの振動数特性は,使う道具の音響特性,接触面積,などに依存している.また,タッピングトーンは,共鳴板の一点における振動数分布を表しているのであるが,共鳴板の一点を叩いて,全体が共鳴した結果の振動数特性を含んでいるということに注意する.このような事情を踏ま
え,曲面上の各点におけるタッピングトーンを\(R^2\) から\(L^2([0, 1])\) への写像として定義し,タッピングトーンの返す値である各点の振動数分布を\(L^2([0, 1])\) かつ連続な関数と見なすことにより,議論の基礎となる集合を次のように与える.
 
Definition 1.1 (タッピングトーンと音列集合) 曲面\(D\) 上の点を\(x = (x_1, x_2)\in R\) とする.この時\(R^2\) から\(L^2([0, 1])\)への写像\(T\) を
\[
T:R^2 \ni x \rightarrow f \in L^2([0, 1])
\] と定義したとき,\(T\) の像をタッピングトーンという.この時タッピングトーン全体の集合を音列集合といい,\(P_T\) と書く.

タッピングトーンを考える際,ある一点\(a\) の近傍を考えるのであるが,そのような近傍を\(T\) -近傍と呼ぶことにし,
\[
U_T (a) = \{x \in D | |x-a| < d_T \}
\] と書くことにする.ここで,道具の選び方に依存するというのは,\(T\) の選び方に依存するという事であり,\(d_T\)は\(T\) によって決まる値である.また,音列集合\(P_T\) は\(T\) の選び方によって決まる集合であるが,ここでは\(T\)についての詳細な議論はせず,[2] に従って,\(T\) の連続性は保障されているものとする.

 
Remark 1.2 共鳴板に対する道具の接触面積が大きい場合,その面積内の各点における振動数分布が異なっていたとしても,同じ振動数分布として扱うということ.\(T\) の接触面積に応じて,\(T\)-近傍が決まる.\(T\)-近傍を限りなく小さくしていけば,より精密な振動数分布状態が得られるということ.したがって,等音面は\(T\) の取り方によって意味合いが異なってくることに注意.\(T\) の連続性の補償については,道具を少しずつずらした時の各点の振動数分布が連続的に移行しているという実験事実に基づく.

 
Remark 1.3 音列集合の元について,正規直交系による展開について触れておく.正規直交系を\( \{ \phi_n \}\) とすれば,
\[
f =\sum< f, \phi_n > \phi_n
\] と各振動数の線形結合として表現できる(Fourier 級数).ここで,\(f\) が正規直交系により展開されたとき,その係数\(< f, \phi_n >\) を\(T\) から定まる音列要素と呼ぶことにする.

以上の定義のもと,等音面上の音列集合について考えていくことにする.

 
1.3 等音面上の音列集合とBrown 運動
等音面とは,曲面\(D\) 上の全ての点において同じ振動数分布となり,振動数分布がGauss 型ホワイトノイズ(以下では\(W_G\) と書くことにする) となるときのことを言う.この定義を定式化するために,等音面上の音列
集合には確率測度が構成でき,音列集合上の確率過程としてBrown 運動が対応するという事を示す.ただし,以下の議論において,
\(C([0, 1]) = \{\omega : [0, 1] \mapsto R, \)連続,\(w(0) = 0\}\),
\(B(C)\) は\(C\) 上のBorel 集合体,\(\Omega \) は空でない集合とする.
まず,標準正規分布\(N(0, 1)\) に従う独立同分布確率変数列\(\{G_k\}\)(標準Gauss 列)を考える.この時,次の定理が成立する.

 
Theorem 1.4 (Paley-Wiener)\( G = \{G_k\}\) を確率空間\((\Omega, B, P)\) 上の標準Gauss 列とするとき,
\[
B_n(t)\equiv G_0t+\sum_{k=1}^{2^n}\frac{\sqrt{2}}{\pi k}\sin \pi kt ,0\leq t\leq 1\;\;\;\;\;(1.1)
\] は\([0, 1]\) で一様概収束する.

この定理により,標準Gauss 列からBrown 運動が構成できることがわかる.次は\(L^2[0, 1]\) に確率測度を入れることを考えることにする.そのためには,次の定理を用いればよい.

 
Theorem 1.5 (Ito-Nisio) Hilbert 空間\(L^2[0, 1]\) の任意の完全正規直交系\( \{\phi _k\} \) に対して,
\[
\phi =\int_0^t \phi_k ds,\;\;\; 0\leq t \leq 1, k\in N \cup \{0\}
\] と定義すると,
\[
B(t)=\lim_{N\to \infty}\sum_{k=0}^NG_kt\phi (t),\;\;\; 0<t<1\;\;\;\; (1.2)
\] は一様概収束する.
ここで\(B_n\) は\(C_¡\) 値確率変数列と考えられ,定理1.4は\(C_¡\) 値確率変数\(B\) が存在して,
\[
P( \lim_{n \to \infty} \| B_n -B \| =0)=1
\] となることを意味している.従って
\[
\Omega _0 \equiv  \{ \omega \in \Omega : \lim_{n \to \infty} \| B_n -B \| =0\}
\] と定義すれば,\( \Omega _0 \in \mathcal{B}\) で\(P(\Omega _0) = 1\) かつ,
\[
B : \omega \in \Omega_0 \rightarrow B(\cdot, \omega) \in  C
\] は,\((\Omega_0,\mathcal{B} \cup B)\) から\((C, \mathcal{B}(C))\) への可測写像となる.従って\(P \circ B^{-1}\) は\((C, \mathcal{B}(C))\) 上の確率測度となる.
以上により\(C([0, 1])\) に確率測度が存在することが示され,この議論を用いれば\(L^2[0, 1]\) に確率測度が存在することを示すことができる.従って等音面上の音列集合に属する元は,標準Gauss 列から構成できる事がわかる.従って,等音面の定義は次のようになる.

 
Definition 1.6 (等音面) 曲面\(D\) 上の任意の二点\(x, y\) を取った時,\(T(x) = T(y)\) が成立し,かつその時の振動数分布が\(W_G\) となる時,曲面\(D\) と\(T\) と\(W_G\) の組\( \{D, T,W_G\}\) を等音面(isophonic surface) という.

 
Remark 1.7 等音面の定義に従えば,音列集合\(P_T\) は一点集合となる.等音面の性質上,異なる振動数分布が存在しないという点において,そのような結論に至るのは自然である.また,一点集合となるという条件のみでなく,その元はGauss 型ホワイトノイズになるというのが重要な点であり,非等音面を構成する際,等音面の音列集合と大きく異なる点である.

2 等音領域(部分等音面)上の確率過程
2.1 概要
等音面は単一の等音領域から構成される曲面である.一つの等音領域には一つの確率過程が対応する.複数の等音領域の合併として定義される非等音面は,複数の確率過程の連結列に対応する.等音面,部分等音面,非等音面などの定義は,すべて等音領域の概念によってなされる.等音領域と等音面の大きな違いは,等音面の各点における振動数分布がGauss 型ホワイトノイズであるのに対し,等音領域の各点における振動数分布は同一分布ではあるがGauss 型ホワイトノイズには従わないということである.

2.2 確率過程の構成法について
等音面,非等音面などの幾何学的,音響学的特性を,その上の粒子のランダム運動の挙動によって対応させるというのが発想の出発点である.Wiener はGauss 分布に従う独立な確率変数を係数とするFourier 級数を用いて,確率測度P の存在を示し,Brown 運動が数学的実体として存在することを示した.それを一般の推移確率の場合に拡張したのがKolmogorov による確率過程の解析的構成法である.等音面の確率過程による定式化にはBrown 運動が対応し,等音領域(部分等音面)の定式化にはKolmogorov による確率過程の解析的構成法を用いる.また,等音領域の合併として定義される非等音面については,異なる確率過程の連結列としてあらわされべきである.非等音面上の粒子のランダム運動は一様Brown 運動と違い,外力が働いているドリフトが加わったランダム運動として解釈することができる.このような系においてはKolmogorov による確率過程の解析的構成法ではうまくいかず,新しい概念が必要になる.それはランダム運動の運動方程式というものを与え,「三つ組の正規性」を導入することで,推移確率を求め,確率過程を構成するという方法である.確率過程を構成するだけではなく,粒子の道筋を解析することによってより多くの情報をランダム運動の運動方程式から得ることができる.等音面については前章で議論した.続いて,等音領域,非等音面に定義を与え,それぞれに対応する確率過程がどのように構成されていくかを以下で議論する.

2.3 等音領域の定義
\(E \subset D\) かつ開集合とする.もし等音面の場合ならば,\(\forall x \in E,\forall y \in E^c \)を取った時,常に\(T(x) = T(y)\) が成立する.しかし,等音面でないならば常に等号は成立しない.従って,等音面でない曲面\(D\) 上の音列集合は少なくとも二つ以上の元が存在することになる.そこで\(T(x) = f\) としたとき,\(T(x_0) = f\) となるような点\(x_0\) を集めた集合を\(E_f\) とする.\(E_f\) は,タッピングトーンの定義により開集合であり,属する点のタッピングトーンは常に等しい集合である.以上をまとめると,

 
Definition 2.1 (等音領域) \(E_f \subset D\) とする.
\[
E_f = \{ x \in D|T(x) = f, f \in L^2[0, 1]\}
\] と書けるとき,\(E_f\) を等音領域(isophonic domain) と呼ぶ.

 
この様に等音領域を定義したとき,曲面\(D\) 上の点はタッピングトーンにより区分けされ,どれかの等音領域に属することになるり,音列集合の元の数と等音領域の数は一致する.よって等音面は\(E_f = D\) となる場合の曲面であることがわかる.
以上のように等音領域を定義し,等音面と同様に,対応する確率過程を考えたいのであるが,等音領域の場合は等音面とは異なり,標準Gauss 列を用いた構成法を用いることはできない.なぜなら等音領域上では,同一のタッピングトーンであるが,その振動数分布はホワイトノイズではないからである.従って,等音領域の場合にはKolmogolov による確率過程の解析的構成法を用いることにより,対応する確率過程が存在することを次節で示すことにする.

2.4 Kolmogorov による確率過程の解析的構成法
等音領域は部分等音面であるため,領域内の各点における振動数分布は同一であるが正規型Gauss 分布ではない.したがって,等音面と同様の議論はできない.Wiener はGauss 分布に従う独立な確率変数を係数とするFourier 級数を用いて,確率測度\(P\) の存在を示し,
Brown 運動が数学的実体として存在することを示した.それを一般の推移確率の場合に拡張したのがKolmogorov による確率過程の解析的構成法である.等音面の確率過程による定式化にはBrown 運動が対応したが,等音領域(部分等音面)の定式化にはKolmogrovによる確率過程の解析的構成法を用いる.
まずは,推移確率の定義から始める.ある確率空間\( (\Omega,F, P)\) 上で定義された,確率過程\(\{X_t(\omega); t \in [a, b], P\}\) について考える.二つの時点\(s, t \in [a, b], s \leq t\) をとり,時刻\(s\) に\(x\) にいたとする.時刻\(t\) にある領域\( \Gamma \) にいる確率
\[
Q(s, x, t, \Gamma) = P[\{\omega : X_s(\omega) = x,X_t(\omega ) \in \Gamma \}] \] を推移確率と呼ぶ.Kolmogorov は推移確率を次のように定義した.

 
Definition 2.2 (推移確率) 時点を\(s, t 2 [a, b], s \leq t\) とし,点\(x \in R^d\) 及び領域\(\Gamma \subset R^d\) を取る.関数\(Q(s, x, t, \Gamma)\) が次の二条件を満たすとき,関数\(Q(s, x, t, \Gamma)\) を推移確率と呼ぶ.
(i) Chapman-Kolmogorov の等式
\[
Q(s, x, t, \Gamma) =\int_{R^d}Q(s, x, r, dy)Q(r, y, t, \Gamma),\;\;\; s\leq r \leq t \;\;\;\; (2.1)
\] (ii) 正規性
\[
Q(s, x, t,R^d) =\int_{R^d}Q(s,x,t,dy)=1\;\;\;\; (2.2)
\] この定義から,時刻\(a\) に\(x\) を出発し,予め定めた時点列
\[
a \leq t_1 \leq t_2 \leq \cdots \leq t_n \leq b
\] に,領域\(\Gamma_1, \Gamma_2,\cdots , \Gamma_n \)を次々に通過し,時刻\(b\) に領域\(\Gamma_b\) に到着する確率は,推移確率\(Q(s, x, t, \Gamma)\) を使って,有限次分布の式が
\[
P[\{\omega : \omega(t_1)\Gamma_1, \omega(t_2)\Gamma_2, \cdots , \omega(t_n)\Gamma_n, \omega(b)\Gamma_b\}]\\
=\int Q(a, x, t_1, dx_1)1_{\Gamma_1} (x_1)Q(a, x, t_2, dx_2)1_{\Gamma_2} (x_2)\\
\;\;\; Q(a, x, t_n, dx_n)1_{\Gamma_n}(x_n)Q(a, x, b, \Gamma_b)\;\;\;\;(2.3)
\] と書ける.以上により準備により,次の定理を用いて等音領域を確率過程によって解釈することができる.

 
Theorem 2.3 (Markov 過程の解析的構成法) 推移確率\(Q(s, x, t, \Gamma)\) は定義を満たすとする.そうすると確率過程\(\{X_t(\omega); t \in [a, b], P\}\) が存在して,(2.3) 式を満たし,その特別な場合として
\[
Q(s, x, t, \Gamma) = P[\{\omega : X_s(\omega) = x,X_t(\omega)  \in \Gamma \}] \] だから,その確率過程は推移確率\(Q(s, x, t, \Gamma)\) をもつMarkov 過程である.

 
この定理により推移確率から確率過程を構成できることがわかる.従って,等音領域に対応する確率過程は推移確率をもって定義されることになる.
ここでもう少し詳しく議論をしておく.等音面はBrown 運動に対応することを見た.Brown 運動の満たす方程式は古典的拡散方程式であるが等音領域に対応する確率過程は,どのような方程式を満たすであろうか?
これは次の定理により明らかになる.

 
Theorem 2.4 (Kolmogorov の定理) 推移確率密度\(q(s, x, t, y)\) は連続性の条件
\[
\lim_{h \downarrow 0}\frac{1}{h} \int_{U_\epsilon (x)^c} q(t-h,x,t,y)dy=0
\] を満たすとする.推移確率密度\(q(s, x, t, y)\) を使ってドリフトの係数を
\[
(b(t, x))^i =\lim_{h\downarrow 0}\frac{1}{h} \int_{U_\epsilon (x)^c} q(t-h,x,t,y)(y^i-x^i)dy
\] で定義する.さらにランダム性の激しさを表す係数を
\[
(σ(t, x))^{ij} =\lim_{h\downarrow 0}\frac{1}{h} \int_{U_\epsilon (x)^c} q(t-h,x,t,y)(y^i-x^i)(y^j-x^j)dy
\] で定義する.推移確率密度\(q(s, x, t, y)\) を使って
\[
u(t, x) =\int_{R^d} q(t, x, b, y)f(y)dy
\] と置く.そうすると関数\(u(t, x)\) は放物型偏微分方程式
\[
\frac{\partial u}{\partial t}+\frac{1}{2}\sum_{t,j=1}^d \sigma ^2(t,x)^{ij} \frac{\partial ^2 u}{\partial x^i \partial x^j}+\sum_{i=1}^d b(t,x)^i \frac{\partial u}{\partial x^i}=0\;\;\;\; (2.4)
\] を満たす.これをKolmogorov の方程式という.

 
これはランダム運動の方程式と呼ばれる方程式である.この方程式の解\(u(t, x)\) が等音領域に対応する確率過程を特徴づける分布関数である.

 
Remark 2.5 この方程式は,Einstein のBrown 運動の満たす方程式
\[
\frac{\partial u}{\partial t}+\frac{1}{2}\frac{\partial ^2 u}{\partial x^2}=0
\] の一般化になっており,等音面とは,等音領域の特別な場合として位置付けることが可能であることがわかる.

2.5 伊藤解析
ランダム運動の方程式としてKolmogorov の方程式を用いるわけだが,実際にはそれがどのようなランダム運動なのかというのはわからない.しかし伊藤清の道筋解析と呼ばれる手法により,その疑問は解決される.
伊藤清の道筋解析の結果より,次の確率微分方程式
\[
dX_t = \sigma(t,X_t)dB_t + \vec{b}(t,X_t)dt
\] の解\(X_t\) とKolmogorov の方程式の解が一致することが示される.ただし,\(\sigma(t, x)\) はマトリックス関数
\[
\sigma(t, x) = \{ \sigma(t, x)_j^i \}: [a, b] \times R^d \rightarrow R^d \times R^d
\] で,\(\vec{b}(t, x)\) は流れベクトル,\(B_t\) はBrown 運動である.つまり確率微分方程式において,時刻\(s\) に点\(x\) を出発したとすると,
\[
X_t = x +\int_s^t \sigma(r,X_r)dB_{r-s}+\int_s^t \vec{b}(r,X_r)dt
\] となり(ただし時刻\(s\) に点\(x\) を出発した\(X_t\) の確率測度を\(P(s,x)\) として定義されたMarkov 過程を\(\{X_t(\omega); t \in [s, b], P_{(s,x)}\}\)とする),関数\(f(x)\) に対して,
\[
u(s, x) = P_{(s,x)}[f(X_b)] =\int q(s, x, b, z)f(z)dz \;\;\;\; (2.5)
\] と置くと,この\(u(s, x)\) はKolmogorov の方程式を満たすという事である.
以上により,等音領域に対応する確率過程の存在と,その特徴づけができた.次節では非等音面について論ずることにする.

3 非等音面上の確率過程
3.1 概要
等音面は単一の等音領域から構成される曲面である.一つの等音領域には一つの確率過程が対応する.複数の等音領域の合併として定義される非等音面は,複数の確率過程の連結列に対応する.非等音面は一様Brown運動と違い,ドリフトが加わったランダム運動として解釈することができる.非等音面の確率過程を考えていくうえで本質的役割を果たすのが,確率過程(拡散過程)の時間対称化というプロセスである.いわゆる確率過程量子化という手法を使う.

3.2 非等音面の定義
非等音面に対応する確率過程について論ずる前に,まずは非等音面を次のように定義する.

 
Definition 3.1 (非等音面) 非等音面(nonisophonic surface) とは,二つ以上の等音領域の合併で得られる曲面である.
 
定義によりわかることは,非等音面に対応する確率過程は,等音領域の数だけ存在し,それらの相互関係を考えなければならない.これを次のように解釈する.二つの等音領域に対応する確率過程が与えられたとき,それぞれに対応する確率過程の推移確率密度は異ならなければならなず,等音領域に対する確率密度関数の違いは,曲面\(D\) の位置に依存して決まることになる.また(2.5) 式によれば,ランダム運動の解は,タッピングトーンから得られる\(L^2\) 関数を用いて表現される.ここで形式的に\(u(t, x)\) を汎関数と見なせば,汎関数微分を考えることが可能となる.これは推移確率密度関数の位置微分と考えることができ,ポテンシャルが存在すると見ることができる.従って非等音面上の粒子のランダム運動は外力のあるランダム運動と解釈することができる.

Remark 3.2 同質の材料でできている共鳴板において,各点の位置の微小変化に対する振動数分布の変化を測定すると,各振動数成分が全て連続的に移行していることが物理測定によって示されている.[2] 参照.\(T\)の接触面積を限りなく小さくした時に対応する等音領域を極小等音領域と定義し,その連結列を考えればよい.汎関数微分の導入において,数学的意味では厳密に定義できてはいない.これは今後の課題であるが,[2]において解析性について論じてある.ここでは,物理的要請として認めて議論を進めることにする.

 
以上により,推移確率密度関数の位置微分が定義でき,これはポテンシャルでり,非等音面上の粒子のランダム運動は外力のあるランダム運動と解釈することができる.この様に解釈した時,等音領域の場合と同様にKolmogorov による確率過程の解析的構成法を用いればよいように思える.しかし,外力が働くランダム運動の場合,推移確率密度が正規性の条件を満たすことができず,その方法を用いることができないことを以下に示す.非等音面上の粒子のランダム運動は次の方程式に従う.
\[
\frac{\partial \phi}{\partial t}+\frac{1}{2}\sigma^2 \Delta \phi +c(x)\phi=0\\
-\frac{\partial \hat{\phi}}{\partial t}+\frac{1}{2}\sigma^2 \Delta \hat{\phi} +c(x)\hat{\phi}=0\;\;\;\;\;(3.1)
\]

この運動方程式はSchrödinger が考案したもので,Brown 運動を時間対称にし,外力ポテンシャルを与えた方程式である(\(c(x)\) はポテンシャル関数).これをさらに一般形にすれば,次のように書くことができる.
\[
\frac{\partial \phi}{\partial t}+\frac{1}{2}\sigma^2 (\nabla+\vec{b}(t,x))^2 \phi +c(x)\phi=0\\
-\frac{\partial \hat{\phi}}{\partial t}+\frac{1}{2}\sigma^2 (\nabla-\vec{b}(t,x))^2 \hat{\phi} +c(x)\hat{\phi}=0\;\;\;\;\;(3.2)
\] ただし,\(a\leq t\leq b \)とし,\(\vec{b}(t, x)\) はベクトル関数,\(c(t, x)\) はスカラー関数であるとする.この運動方程式の第一式は始発点\(a\) から終着点\(b\)に向けて外力の下でのランダム運動の発展を記述する方程式であり,それに対して第二式は,始発点\(b\) から終着点\(a\)に向けて,時間の向きを逆転して,外力の下でのランダム運動の発展を記述する方程式である.以上により,運動方程式を与えたので,その解を求めいくことにしよう.ここで次の基本解を定義する.

 
Definition 3.3 (入口関数,出口関数と運動方程式の基本解) 時点\(a\) で初期関数\(\hat{\phi}_a(z)\) を入口関数,時点\(b\)で終期関数\(\hat{\phi}_b(y)\) を出口関数と呼び,運動方程式(3.2) の解が関数\(p(s, x, t, y)\) を使って
\[
\phi(t,x)=\int p(t,x,b,y)\phi_b(y)dy\\
\hat{\phi}(t,x)=\int dz\hat{\phi}_b(y)p(a,z,t,y)
\] で与えられるとき,関数\(p(s, x, t, y)\) を運動方程式(3.2) の基本解と呼ぶ.

 
基本解より構成される\(\phi(t, x)\) を発展関数, \(\hat{\phi}(t, x)\) を逆向きの発展関数と呼ぶ.これより,この方程式の解を用いて確率過程が構成できることを示せばよいのであるが,この構成においてKolmogorov の方法は用いることができない.なぜなら,運動方程式(3.2) の基本解\(p(s, x, t, y)\) を調べてみると,運動方程式は外力のポテンシャルを含むため
\[
\int p(t,x,b,y) \neq 1
\] となる.つまり,運動方程式の基本解は,(2.2) 式の推移確率密度の正規性の条件を満たさないのである.これは推移確率密度ではないという事を意味するのである.従って,Markov 過程に依存しない形で運動方程式のランダム運動に対応する確率過程を構成しなければならないという事がわかる.この問題に対しては,三つ組みの正規性を導入することにより,解決される.

3.3 確率過程の時間対称化と三つ組みの正規性
Definition 3.4 (三つ組みの正規性) 運動方程式の基本解\(p(s, x, t, y)\) と入口関数\(\hat{\phi}_a(z)\) と出口関数\(\phi_b(y)\) の三者は条件
\[
\int dz \hat{\phi}_a(z)p(s, x, t, y)\phi_b(y) = 1 \;\;\;\; (3.3)
\] を満たすとする.三者\(\{p(s, x, t, y), \hat{\phi}_a(x), \phi_b(y)\}\) を三つ組みと言い,上式を三つ組みの正規性と呼ぶ.

この正規性を基に,非等音面に対応する確率過程について論じていくことにする.
まず,三つ組みの正規性を拡張して,\(a \leq t_1 \leq t_2 \leq \cdots \leq t_n \leq b\) に領域\(\Gamma_1, \Gamma_2, \cdots , \Gamma_n\) を次々に通過していくサンプル\(\omega(t)\) の集合\(\{\omega : \omega(t_1) \in \Gamma_1, \omega(t_2) \in \Gamma_2,\cdots , \omega(t_n) \in \Gamma_n\}\) に対してランダム運動の確率測度\(Q\)は
\[
Q[\{\omega : \omega(t_1)\Gamma_1, \omega(t_2)\Gamma_2, \cdots , \omega(t_n)\Gamma_n\}]\\
=\int dx_0\hat{\phi}_a(x_0)p(a,x_0,t_1,x_1)1_{\Gamma_1}(x_1) dx_1p(t_1,x_1,t_2,x_2)1_{\Gamma_2}(x_2)\\
\;\;\;\; \cdots p(t_{n-1},x_{n-1},t_n,x_n)1_{\Gamma_n}(x_n)dx_np(t_n,x_n,b,y)\phi_b(y)dy\;\;\;\; (3.4)
\] 次に,ランダム運動の方程式(3.2) の解\(\phi(t, x),\hat{\phi}(t, x)\) からさらなる情報を引き出すために,次のような定義を用いる.

 
Definition 3.5 発展関数\(\phi(t, x)\) と逆向きの発展関数\(\hat{\phi}(t, x)\) を使って,
\[
R(t, x) =\frac{1}{2}\log \phi(t,x)\hat{\phi}(t,x)\;\;\;\;\;(3.5)\\
S(t, x) =\frac{1}{2}\log \frac{\phi(t,x)}{\hat{\phi}(t,x)}\;\;\;\;\;(3.6)
\] を定義し,ペア\(\{R(t, x), S(t, x)\}\) をランダム運動の生成関数と呼ぶ.\(R(t, x)\) を分布の生成関数,\(S(t, x)\) をランダム運動の位相関数と呼ぶ.

この定義を用いることにより,ランダム運動の運動方程式の解は指数関数で表示することができる.
Definition 3.6 生成関数\(\{R(t, x), S(t, x)\}\) を使って発展関数を
\[
\phi(t, x) = e^{R(t,x)+S(t,x)}, \hat{\phi}(t, x) = e^{R(t,x)-S(t,x)} \;\;\;\; (3.7)
\] と指数関数で表す.これを発展関数の指数関数表示と呼ぶ.

 
また,分布の生成関数と位相関数のペア\(\{R(t, x), S(t, x)\}\) を使うと,古典力学の「速度」に対応する物理量を定義することができることが知られている.

 
Definition 3.7  
(i) 生成関数のペア\(\{R(t, x), S(t, x)\}\) を使って
\[
\vec{a}(t, x) = \sigma ^2 \nabla \log \phi(t, x) = \sigma^2(\nabla R(t, x) + \nabla S(t, x)) \;\;\;\; (3.8)
\] と置く.\(\vec{a}(t, x)\) を発展の流れベクトルと呼ぶ.
(ii) 生成関数のペア\(\{R(t, x), S(t, x)\}\) を使って
\[
\vec{\hat{a}}(t, x) = \sigma ^2 \nabla \log \hat{\phi}(t, x) = \sigma^2(\nabla R(t, x) – \nabla S(t, x))
\] と置く.\(\vec{\hat{a}}(t, x)\) を逆向きの発展の流れベクトルと呼ぶ.

3.4 ランダム運動の運動方程式から確率過程を構成する方法
以上の準備の下,非等音面に対応する確率過程の存在は,次の定理により保障される.
Theorem 3.8 運動方程式(3.2) の基本解を\(p(s, x, t, y)\) とする.そうすると三つ組み\(\{p(s, x, t, y), \hat{\phi}_a(x), \phi_b(y)\}\)から確率過程\(\{X_t(\omega); t \in [a, b],Q\}\)が定まる.そして更に,発展関数\(\phi(t, x)\) から発展の流れベクトル
\[
\vec{a}(t, x) = \sigma^2 \nabla \log \phi(t, x) = \sigma ^2(\nabla R(t, x) + \nabla S(t, x))
\] が定まる.

 
以上により,非等音面に対応する確率過程の存在が示された.次にそのランダム運動が具体的にどのように表されるかを議論する.
まず運動方程式の基本解と発展関数から,確率過程\(\{X_t(\omega); t \in [a, b],Q\}\) に対して,推移確率密度が定義できることが知られている.

 
Theorem 3.9 (推移確率密度) 運動方程式(3.2) の基本解\(p(s, x, t, y)\) と発展関数\(\phi(t, x)\) を用いて関数
\[
q(s, x, t, y) =\frac{1}{\phi(s,x)}p(s, x, t, y)\phi(t, y)  \;\;\;\;  (3.9)
\]  を定義すると,それは推移確率密度の条件(2.1) と(2.2) を満たす.つまり関数\(q(s, x, t, y) \)は推移確率密度である.
この推移確率密度が,非等音面に対応する運動方程式の解となることが,次の定理により知られている.

 
Theorem 3.10 (運動方程式が決めるランダム運動の運動学) 運動方程式(3.2) の基本解\(p(s, x, t, y) \)とする.そうすると
(i) (3.9) 式で定義した推移確率密度
\[
q(s, x, t, y) =\frac{1}{\phi(s,x)}p(s, x, t, y)\phi(t, y)   
\] は放物型方程式
\[
\frac{\partial u}{\partial s}+\frac{1}{2}\sigma^2 \Delta u+(\sigma^2 \vec{b}(s,x)+\vec{a}(s,x))\cdot \nabla u=0    \;\;\;\;   (3.10)
\] の基本解である.ここで,
\[
\vec{a}(t, x) = \sigma^2 \nabla \log \phi(t, x) = \sigma^2(\nabla R(t, x) + \nabla S(t, x))
\] は発展関数\(\phi(t, x) = e^{R(t,x)+S(t,x)}\) から決まる発展の流れベクトルである.この方程式を運動学の方程式と呼ぶ.
(ii) 更に\(q(s, x, t, y)\) は\((t, y)\) の関数として
\[
-\frac{\partial \mu}{\partial t}+\frac{1}{2}\sigma^2 \Delta \mu-\nabla \cdot (\sigma^2 \vec{b}(t,y)+\vec{a}(t,y))=0          
\] を満たす.
また,ランダム運動の道筋方程式として次の定理が知られている.
Theorem 3.11 (ランダム運動の道筋方程式)  
(i) 運動方程式(3.2) の解,つまり発展関数が定める確率過程\(\{X_t(\omega); t \in [a, b],Q\}\) の解の道筋\(X_t(\omega)\) は発展の流れベクトル\(\vec{a}(t, x) = \sigma^2 \nabla \log \phi(t, x) \)が加わった確率微分方程式
\[
X_t=X_a+\sigma B_{t-a}+\int_a^t \left( \sigma^2 \vec{b}(s,X_s)+\sigma^2\frac{\nabla \phi}{\phi}(s,X_s) \right) ds\;\;\;\;\;(3.11)
\] に依って記述される.(3.11) 式をランダム運動の道筋方程式と呼ぶ.ただし\(B_t\) はBrown 運動,そして出発点\(X_a\) はBrown 運動とは独立な確率変数である.
(ii) 確率過程\(X_t\) の分布密度\(\mu_t(x)\) は
\[
\mu_t(x) = \phi(t, x) \hat{\phi}(t, x) = e^{2R(t,x)},\;\;\;\ t \in [a, b] \] で与えられる.

 
以上により,非等音面に対応する確率過程と,それが従う運動方程式について示すことができた.

  
3.5 これまでの総括
等音面,等音領域,非等音面,それぞれに対応する確率過程も構成の仕方について詳しく見てきた.等音面においては,Wiener 過程(Brown 運動)が対応し,確率測度の存在をPaley-Wiener の定理,Ito-Nishio の定理を用い証明し,その数学的実体を明らかにした.つづく等音領域においては,Kolmogorov による確率過程の解析的構成法を用いることで確率過程を構成することができた.最後に,非等音面においては,三つ組みの正規性を導入することによって時間対称化した発展方程式を解き,その基本解と生成関数から確率過程を構成することができた.この時,等音面上の粒子のランダム運動は,Einstein のBrown 運動の方程式などの古
典的拡散方程式に従い,等音領域上の粒子のランダム運動は,Kolmogorov の方程式に従う.古典的拡散方程式を一般化したものがKolmogorov の方程式である.最後に,非等音面であるがそれは,時間対称化した双子の発展方程式に従う.次節で,この双子の発展方程式を複素数表示するとSchrödinger 方程式になることを見る.つまり,非等音面上の粒子の挙動はSchrödinger 方程式に従うことがわかるのである.

等音面を確率過程論によって数学的に定式化する最大の目的は,フォノグラムを仮定しないで非等音面から等音面を構成するアルゴリズムの存在(それはないかもしれないが)を示すことにある.上記対応表により,非等音面から等音面に移行する過程を解析することができる.またこの結果より,音という物理現象と確率過程の関係を曲面構造から導くことができ,確率微分方程式から曲面の分類をするという意味で,数学的に非常に興味深いものであることがわかる.さらにそれぞれの確率微分方程式と対応する運動方程式の存在も認められ,数理物理学の問題としても十分に定式化可能であることがわかる.
しかし,厳密な意味において数学の形式にできているわけではなく,詳細を詰めることが必要である.その中で最も興味深い問題は,非等音面に対応する確率過程の構成に関する問題である.等音面においては,対応する確率過程はWiener 過程であり直接確率測度を定義できるため比較的構成しやすいが,非等音面においては,同様の手法をとることができなかった.ここで問題となるのが,異なる確率過程の絡み合いの問題である.本稿では,異なる推移確率密度を持つというのを,外力ポテンシャルを持つ確率過程として見ることにより,ドリフトがある確率微分方程式として解釈した.ここでは詳細な議論をすることができなかったが,外力
ポテンシャルとしての扱いを精密なものとするためには,汎関数微分を導入しなければならない.これは確率過程の変分学的取扱いになり,現段階で示すのは非常に難しい問題である.しかし,この問題が数学的に厳密に示すことができれば確率過程と曲面構造の関係を,より精密に示すことができるであろうと考えられる.更には,対応する運動方程式との関係から,偏微分方程式の分類に関して,新たな知見を与えることができると考えられる.この様な観点から確率変分学的取扱いを考え,音響対称性を研究していくのが今後の課題と展望
である.

4 非等音面上の粒子の挙動はSchrödinger 方程式に従う
我々は,非等音面に対応する確率過程が,外力ポテンシャルのあるBrown 運動に対応し,それが時間対称化された拡散方程式である双子の発展方程式に従うことを見てきた.この双子の発展方程式を複素数表示するとSchrödinger 方程式が導かれることを示す.つまり,「ホワイトノイズを流した非等音面上の粒子の挙動はSchrödinger 方程式に従う」という結論が導かれるのである.生成関数を用いて,複素指数関数は次のように定義される.
Definition 4.1 関数のペア\(\{R(t, x), S(t, x)\}\) を使って,複素指数関数
\[
\psi(t, x) = e^{R(t,x)+iS(t,x)}
\] を定義し,それを複素発展関数と呼ぶ.そして複素関数\(R(t, x) + iS(t, x)\) を複素生成関数と呼ぶ.

 
以上により,発展関数と複素発展関数が定義された.ここで重要なのは両者が共通の\(\{R(t, x), S(t, x)\}\) を持つという事であり,次の定理が示される.

 
Theorem 4.2 (運動方程式とSchrödinger 方程式) 発展関数のペア\(\{\phi(t, x), \hat{\phi}(t, x)\}\) が運動方程式
\[
\frac{\partial \phi}{\partial t}+\frac{1}{2}\sigma^2 (\nabla+\vec{b}(t,x))^2 \phi +c(x)\phi=0\\
-\frac{\partial \hat{\phi}}{\partial t}+\frac{1}{2}\sigma^2 (\nabla-\vec{b}(t,x))^2 \hat{\phi} +c(x)\hat{\phi}=0
\] を満たすことと,複素発展関数が複素発展方程式(Schrödinger 方程式)
\[
i\frac{\partial \psi}{\partial t}+\frac{1}{2}\sigma^2 (\nabla +i\vec{b}(t,x))^2\psi-V(t,x)\psi=0
\] を満たすことは同等である.ただし,運動方程式の\(c(t, x)\) と複素発展方程式の\(V (t, x)\) には
\[
V (t, x) + c(t, x) + \sigma^2 \vec{b}^2 + \tilde{V} (t, x) = 0\\
\tilde{V} (t, x) =2\frac{\partial S}{\partial t}+\sigma ^2(\nabla S)^2+2\sigma^2\vec{b}\cdot \nabla S
\] の関係がある.ここに現れた\(\tilde{V} (t, x)\) は外力によるものではない.

 
発展方程式を複素数表示することによって,絡み合った確率過程を考えることができる.絡み合った確率過程は干渉現象を引き起こすことが知られている.Chladni 図形は,振動する板に砂状の粉を撒いたときに現れる図形であり波動方程式の境界値の解である固有関数の節に砂が止まって,節線が浮かび上がって出来る図形であるとされている.しかし我々は,粒子の運動である確率過程が引き起こす干渉現象によって,Chladni 図形の再解釈を試みたい.次節において,確率過程の絡み合いについての一般論を議論し,Chladni 法を再考するための準備をする.

5 絡み合った確率過程
発展関数\(\phi(t, x) \)と逆向きの発展関数\(\hat{\phi}(t, x)\) が与えられると,(3.5) 式で分布生成関数\(R(t, x)\) が,(3.6) 式でランダム運動の位相関数\(S(t, x)\) が得られる.逆に関数のペア\(\{R(t, x), S(t, x)\}\) が与えられれば,発展関数は
\[
\phi(t, x) = e^{R(t,x)+S(t,x)}, \hat{\phi}(t, x) = e^{R(t,x)-S(t,x)} \;\;\;\; (5.1)
\] で定義できる.また,前節から関数のペア\(\{R(t, x), S(t, x)\}\) を使って,複素指数関数
\[
\psi(t, x) = e^{R(t,x)+iS(t,x) } \;\;\;\; (5.2)
\] を定義し,それを複素発展関数と呼んだ.複素発展関数が与えられたとき,それからランダム運動を直ちに得ることはできないが,ランダム運動の分布密度\(\mu(t, x) = e^{2R(t,x)}\) を得られることが知られている.
Theorem 5.1 発展関数のペア\(\{\phi(t, x), \hat{\phi}(t, x)\}\) を式(5.1) で,複素発展関数\(\psi(t, x)\) を式(5.2) で定義すると
\[
\phi(t, x)\hat{\phi}(t, x) = \psi(t, x)\overline{\psi(t, x)}
\] が成立する.ここで\(\overline{\psi(t, x)}\) は\(\psi(t, x)\) の複素共役である.

 
これは,ランダム運動の分布密度\(\mu(t, x) = e^{2R(t,x)}\) を計算するには,発展関数のペア\(\{\phi(t, x), \hat{\phi}(t, x)\}\) を使っても,複素発展関数のペア\(\{\psi(t, x), \overline{\psi(t, x)}\}\) を使っても同じことを意味する.
上述の議論以上に,複素発展関数の重要な応用は,絡み合わせた発展関数とそれが決定する絡み合ったランダム運動である.それは,複素発展関数\(\psi_1(t, x)\) と\(\psi_2(t, x)\) が複素発展方程式(Schrödinger 方程式)の解ならば,複素発展方程式は線形だから,それらの線形和
\[
\psi^*(t,x)=\alpha \psi_1(t,x)+\beta \psi_2(t,x)
\] も解である.以前は\(\psi^*(t, x)\) を\(\psi_1(t, x)\) と\(\psi_2(t, x)\) の重ね合わせと呼んでいたが,最近では\(\psi^*(t, x)\) を\(\psi_1(t, x)\) と\(\psi_2(t, x)\) が絡み合った複素発展関数と呼ばれる.絡み合った複素発展関数を通じて決定される運動が,絡み合ったランダム運動である.以下では絡み合ったランダム運動について議論する.
絡み合った複素発展関数\(\psi^*(t, x)\)は絡み合ったランダム運動を生み出す.それは次のように作られる.まずランダム運動を二つ用意し,それぞれ「ランダム運動」,「ランダム運動」とする.また
ランダム運動の発展関数:
\[
\phi_1(t, x) = e^{R_1(t,x)+S_1(t,x)}, \hat{\phi}_1(t, x) = e^{R_1(t,x)-S_1(t,x)}
\] ランダム運動の発展関数:
\[
\phi_2(t, x) = e^{R_2(t,x)+S_2(t,x)}, \hat{\phi}_2(t, x) = e^{R_2(t,x)-S_2(t,x)}
\] とする.ここで絡み合いは複素数の足し算であるから,\(\{R_1(t, x), S_1(t, x)\}\) と\(\{R_2(t, x), S_2(t, x)\}\) を使って,
\[
\mbox{複素発展関数:}\psi_1(t, x) = e^{R_1(t,x)+iS_1(t,x)}\\
\mbox{複素発展関数:}\psi_2(t, x) = e^{R_2(t,x)+iS_2(t,x)}
\] を定義し,線形結合
\[
\psi^*(t,x)=\alpha \psi_1(t,x)+\beta \psi_2(t,x) \;\;\;\; (5.3)
\] を作る.ここで\(\alpha, \beta\) は複素数の定数で,正規性の条件\(|\psi^*(t, x)|^2 = 1\) を満たしているものとする.そして\(\psi^*(t,x)\) を
\[
\psi^*(t, x) = e^{R^*(t,x)+iS^*(t,x) } \;\;\;\; (5.4)
\] と指数関数表示する.以上により,
Definition 5.2
(i) 式(5.4) を\(\psi_1(t, x)\) と\(\psi_2(t, x)\) が絡み合った複素発展関数と呼ぶ.
(ii) 絡み合った複素発展関数の指数\(\{R^*(t, x), S^*(t, x)\}\) をペア\(\{R_1(t, x), S_1(t, x)\}\) とペア\(\{R_2(t, x), S_2(t, x)\}\)の絡み合わせと呼ぶ.
(iii) 絡み合わせた\(\{R^*(t, x), S^*(t, x)\}\) で発展関数のペア
\[
\psi^*(t, x) = e^{R^*(t,x)+iS^*(t,x) },\hat{\psi}^*(t, x) = e^{R^*(t,x)-iS^*(t,x) } \;\;\;\; (5.5)
\] を定義して,これを発展関数のペアとのを絡み合わせた発展関数と呼ぶ.

 
この絡み合った発展関数は\(p^*(t, x, b, y)\) があって,
\[
\hat{\phi}^*(t,x)=\int dz \hat{\phi}_a^*(z)p^*(a,z,t,x)\\
\hat{\phi}^*(t,x)=\int p^*(t,x,b,y)\hat{\phi}_b^*(z)dy
\] と表される.
Definition 5.3 トリプレット\(\{p^*(a, z, t, x), \hat{\phi}_a^*(z), \hat{\phi}_b^*(y)\}\)に有限次分布の式(3.4) を適用して確率過程\(\{X_t(\omega); t \in [a, b],Q^*\}\)を定義する.この確率過程を,運動と運動が絡み合ったランダム運動と呼ぶ.
 
絡み合ったランダム運動について次の事が知られている.
Theorem 5.4 絡み合ったランダム運動の道筋は
\[
X_t = X_a^*+ \sigma B_{t-a} +\int_a^t (\sigma^2 \vec{b}(s,X_s)+\vec{a}^*(s,X_s))ds
\] である.ここで出発点\(X_a^*\)の分布密度は\(\mu_a^*(x)= e^{2R^*(a,x)}\) である.これは出発時での絡み合った分布生成関数\(R^*(a, x)\) から決まる.そして,
\[
\vec{a}^*(t, x) = \sigma^2 \nabla R^*(t, x) + \sigma^2 \nabla S^*(t, x)
\] は,絡み合った流れベクトルである.さらに,絡み合ったランダム運動の分布密度は有限次分布の式(3.4) により,
\[
\mu^(t,x)*=\hat{\phi}^*(t, x) \phi^*(t, x)
\]

 
絡み合ったランダム運動は従来の確率過程論では知られていなかった概念であり,絡み合った運動が示す顕著な性質が絡み合い効果である.
Theorem 5.5 絡み合ったランダム運動の分布密度\(\mu^*(t, x)\) は
\[
\mu^*(t, x) = |\alpha|^2e^{2R_1(t,x)} + |\beta |^2 2e^{2R_2(t,x})\\
+2e^{R_1(t,x)+R_2(t,x)}\rm{Re}(\alpha \hat{\beta}) \cos(S_1(t, x) – S_2(t, x))\\
-2e^{R_1(t,x)+R_2(t,x)}\rm{Im}(\alpha \hat{\beta}) \cos(S_1(t, x) – S_2(t, x))  \;\;\;\; (5.6)
\] であり,
\[
+2e^{R_1(t,x)+R_2(t,x)}\rm{Re}(\alpha \hat{\beta}) \cos(S_1(t, x) – S_2(t, x))\\
-2e^{R_1(t,x)+R_2(t,x)}\rm{Im}(\alpha \hat{\beta}) \cos(S_1(t, x) – S_2(t, x)) \;\;\;\; (5.7)
\] をランダム運動の絡み合い効果という.
絡み合い効果により,絡み合ったランダム運動の分布密度の式(5.6) には縞模様が表れる.これは絡み合ったランダム運動の縞模様と呼ばれる.我々は等音面,非等音面を確率過程と対応させ,ランダム運動について議論してきた.また,以上の結果から,絡み合ったランダム運動は,波の性質と同じく干渉現象を引き起こすことが示された.この性質に着目すれば,Chladni 図形を波動論ではなく確率過程論によって研究していくことが可能となることがわかる.次節においてクラドニ法について再考し,今後の展望について述べる.

6 Chladni 法再考(まとめと展望)
1. ノイズの絡みついた固有振動(楽音) 
膜の固有振動を視覚化する方法としてChladni 法というものがある.Chladni 図形は,振動する板に砂状の粉を撒いたときに現れる図形であり波動方程式の境界値の解である固有関数の節に砂が止まって,節線が浮かび上がって出来る図形である(とされる).これを数学的に定式化したものが重調和作用素の固有値問題である.しかし,Chladni 図形はあくまで物理現象であり,このような理想化した数学モデルにそのまま当てはめるわけにはいかない.理由は簡単で,固有振動(単振動)などというものが物理的には絶対に作ることができないからである.また,自然界のどこにも固有振動の音というものは存在せず,いわば,数学的理想化された
観念にすぎないのである.仮に固有振動なるものを人工的,機械的に作り出し,それによって板を振動させたとする.この時,この板に含まれる振動数成分で,振動させている固有振動の倍音関係にある振動数成分成分や,和声学的に協和関係(単純な整数比の関係)にある振動数成分は共鳴してしまう.板に固有音だけを振動させることは物理的,音響学的に不可能なのである.実際の物理的な固有音というものは,ある代表の音(固有音として扱われている)をピークとして,同時にそれと共鳴する振動数成分が絡み付いているもののことである.これをノイズの絡みついた固有振動ということにする.
このような物理的実情は,上記の数学的定式化からは除外されている部分である.実際の楽音の音色というのは,このノイズの絡みついた固有振動を考えなければならないのである.

 
2. 固有振動を流した等音面
本論考において,等音面および,非等音面にホワイトノイズを流し,その面上をランダム運動する砂粒の解析を行った.我々の理論には,波動方程式の固有値や,それによって説明されているChladni 法は出てこない.そこで使われたのは,時間対称化された拡散方程式である双子の運動方程式である.
ここで,ホワイトノイズの代わりに,固有振動を等音面に流したら粒子の挙動はどうなるであろうか?
きっと,Chladni 図形と同じものが砂の挙動として浮かび上がってくるであろう.この時の等音面上の各点における振動数分布はどうなっているであろうか?
ホワイトノイズの場合は,等音面の各点における振動数分布は同一であると仮定してよかった,しかし,固有振動に対してはそうはならない.Chladni 図形が,固有関数の振動の節であるとするならば,そこに対応する等音面上の点の振動数分布はゼロ分布でなくてはならない.つまり,そこの節点,もしくは節線上に粒子が来たとしたら,そこからは出ることができないという運動をするはずである.
また,非等音面において同じことを施せば,,等音面ほどはっきりしていない,いわば揺らぎのある節点や節線があるとよそうされる.節点はほぼゼロ分布であるが,少し揺らいでいる分布になっているのである.
実際の運動は,揺らぎが絶対にある.これが,固有振動のランダム項である.このように考えれば,波動方程式の固有値と等音面の確率過程論の対比研究が可能になる.それらは相関関係にあるといっていい.

 
Remark 6.1 実際の楽器制作の現場において,楽器を弾いたとき,ある特定の音が出にくいという問題がある.ある楽音を出すという行為は,擦弦することにより固有振動を共鳴板に与えることであるが,その時,その固有音と,不協和関係にある振動数成分が共鳴板に存在する時,濁って聞こえたり,音が遅れて立ち上がってきたりする.よい楽器というのは,全ての音が同一の反応を示し,すべての音が入力と同時に立ち上がってくることである.これは均等化である.波動方程式の固有値理論と,砂粒の挙動である確率過程の比較研究をすることにによって,このような問題が解決されることを期待するのである.出にくい固有振動は,節点や節線が空間的に対称でなく,かつその他の点における振動数分布も対称ではないはずである.非等音面!

 
3.Chladni 図形と干渉稿 
Chladni 図形は境界値のある進行波の干渉縞であるとするならば,これを波動論でなく,粒子のランダム運動の理論から導き出したいのである.これを可能にするのが,絡み合ったランダム運動の理論とそれを可能にするランダム運動の方程式の複素数表示である.つまりSchrödinger方程式である.「縞模様は波動に固有な現象であって,それ以外の物理現象では現れない」という信条は根拠薄弱で,長いこと定説であったとはいえ,それは誤りである(長澤).Chladni 図形は,波動方程式の固有関数の節線とされるが,粒子のランダム運動をかんがえ,その重ね合わせ,絡み合い効果によっても干渉縞という現象が引き起こされる.波動理論を用いなくても干渉縞を構成できるのである.我々の理論の肝は,(粒子)の推移確率分布が音(波)の振動数分布に対応しているという点である.粒子的性質である確率過程は,波動的性質である振動数分布によって規定され,また,等音面の音響的性質(波動的性質)は,(粒子的性質)である砂粒の挙動,確率過程によって規定されるのである.マクロな物理現象である等音面の理論構成は,その根底に粒子性と波動性の二重性を備えている.量子力学とは全く関係がない等音面の理論からSchrödinger 方程式が導出されたのは偶然ではないと思われる.

 
4. 拡散方程式の固有値問題と相転移,反斜壁Brown 運動 
砂粒の挙動は拡散方程式に従うが,境界値のある場合や,コンパクトな曲面上での砂粒の挙動はどのようなものであろうか?境界値の設定が問題になるが,境界は壁で仕切られており,反射すると考えて粒子のBrown運動を捉えたい.その時,定常状態にあたるものはあるであろうか?これは,相転移の問題と関係がある.また,それは,波動方程式の固有値問題とどのような関係にあるであろうか?このような問題を考えることで非平衡系の熱力学への突破口が見つかるかもしれない.

 
参考文献
[1] 小野田智之(2011)「音の作る形」
[2] 小野田智之・廣國善紀(2012)「等音面の理論」
[3] 長澤正雄(2012)『マルコフ過程論による新しい量子理論』創英社